「実家のお墓、いずれ誰が継ぐの?」――この問いに、はっきり答えられない日本の家庭が急増しています。厚生労働省の統計では、2024年度にお墓の遺骨を移す「改葬」は176,140件と過去最多を更新。10年前の約2倍です。お墓の世界でいま起きていることを、最新データで整理します。
176,140件
2024年度の改葬件数。過去最多(厚生労働省・衛生行政報告例)
48.5%
新しく購入されたお墓のうち樹木葬が占める割合(2025年調査)
36.7%
お墓購入時に「継承者不要」を重視した人の割合
1. 墓じまいは「特別な決断」ではなくなった
改葬件数は1997年度には約7万件でしたが、2017年度に10万件を超え、2022年度15万件、2023年度16.6万件、2024年度17.6万件と3年連続で最多を更新。都道府県別では北海道(14,628件)・東京都(12,982件)・大阪府(10,376件)が上位で、「故郷のお墓を、いま住んでいる街の近くへ移す」動きが数字に表れています。
なぜ増えるのか。2026年1月実施の調査(回答者733人)では、墓じまいを検討した理由の1位は「お墓が遠方にあること」、2位は「継承者がいないこと」。少子高齢化と人口移動が、そのままお墓の事情になっています。同じ調査では、墓じまいの実施経験者は前回調査の39.9%から45.2%へ増加。墓じまいは今や特別な決断ではなく、お墓をめぐる標準的な選択肢のひとつになりつつあります。
なお、縁者がいなくなったお墓を管理者が撤去する「無縁墳墓等の改葬」は2024年度で3,006件にとどまり、急増しているのはあくまで遺族が自ら考えて行う計画的な改葬です。「お墓の管理ができなくなってから慌てる」のではなく、「元気なうちに整理する」行動として定着しつつあります。
2. 新しく買うお墓の83%は「墓石」ではない
いま新たにお墓を購入する人は、何を選んでいるのでしょうか。2024年にお墓ポータル経由で購入した人1,475人の調査では、内訳はこうなりました。
| お墓の種類 | 割合 | 平均購入額 |
|---|---|---|
| 樹木葬 | 48.5% | 67.8万円 |
| 一般墓(墓石) | 17.0% | 155.7万円 |
| 納骨堂 | 16.1% | 79.3万円 |
| 合祀墓・合葬墓 | 14.6% | (一人あたり数万円〜30万円程度が目安) |
墓石を建てない「一般墓以外」の選択は83%に達し、価格も一般墓の半分以下。購入時に重視した点でも「お墓の種類」(49.4%)、「金額」(41.9%)に続き、「継承者不要」(36.7%)が3位に入りました。2026年の最新調査でも樹木葬は47.4%とほぼ半数を維持しています。
3. 墓じまいの費用――「半数は70万円以下」で完了
気になる費用ですが、前出の調査では実施費用は「31万円〜70万円」が最多で、約半数が70万円以下で完了しています。内訳は①墓石の撤去工事(目安として1平方メートル10〜15万円)②行政手続き③新しい納骨先の3つ。総額の目安は30〜150万円と幅がありますが、これは撤去する墓の規模と、移動先の価格によって変わります。
注意すべきは、墓じまいを断念した人の理由の1位が「費用の高さ」だったこと。一方で断念理由からは「親戚の理解」が減り、「先祖へのうしろめたさ」が増えています。お金の問題と同時に、気持ちの整理も含めて考えるべきテーマです。
手続き面では、改葬には役所の発行する「改葬許可証」が必須で、申請先は現在お遺骨のある自治体です。この手続きを経ないままの遺骨移動は法律上認められていません。
4. 永代供養を選ぶなら、必ず確認したい「ひとこと」
継承不要で人気の永代供養。ただし業界自身が注意喚起するように、永代供養のトラブルで最も多いのが「一定期間後に合祀される」問題です。多くの永代供養墓では、たとえば三十三回忌までの一定期間は個別に安置され、その後は他の方の遺骨と一緒に合祀されます。合祀された遺骨は、原則として後から個別に取り出せません。
契約前に確認したいのは、たったひとこと。「個別安置の期間はいつまでで、その後の遺骨はどうなるのか」。ここを言えない業者とは契約しない、これが最大の自衛です。
樹木葬にも同様の注意があります。近年は「遺骨を土に還さない」「一定期間後に合祀墓へ移す」タイプが増えており、自然に帰るイメージだけで選ぶと、思っていた形と違うことがあります。
5. 「お墓を持たない」選択肢もある
- 手元供養:遺骨の一部をミニ骨壺(4,000円〜7万円程度が目安)やアクセサリーにして手元に置く方法。残りの遺骨は別の方法で供養するのが一般的です。
- 散骨:海洋散骨など。散骨を禁じる法律はなく、節度をもって行われる限り黙認されています。費用の目安は代行で2〜10万円、乗船式で15〜40万円。事業者を選ぶ際は、厚生労働科学研究でまとめられた「散骨に関するガイドライン(散骨事業者向け)」を踏まえた運営かを確認しましょう。
- 送骨:郵送で受け付ける墓地もあり、一人あたり3〜5万円程度から。
6. 判断に迷ったら、この順で考えてみる
Q1. お墓の継承者はいる? → いない/遠方… Q2へ/いる・近所に住んでいる… 今のお墓の維持費と修繕時期だけ確認を
Q2. 今のお墓に遺骨を残したい? → 残したい… 納骨堂・樹木葬(個別タイプ)へ改葬/こだわらない… 永代供養(合祀)で完了/手元供養・散骨も選択肢
Q3. 費用の予算は? → 30万円未満… 合祀墓・送骨・散骨/30〜100万円… 樹木葬・納骨堂の中心的な価格帯/100万円超… 個別墓・納骨堂の上級タイプ
このフローは「正解」を示すものではありません。宗派や地域の慣習、ご家族の考え方によって最適解は変わります。迷ったら、見積もりと同じで複数の事業者・寺院の話を聞いて比較することです。
まとめ
お墓は「子や孫が継ぐもの」という前提そのものが、静かに終わりつつあります。10年で2倍になった改葬、8割に達した「墓石なし」の選択。これは身も蓋もない合理化ではなく、現代の家族のかたちに合わせた、新しい供養の設計です。何もしなければ決断は遅れ、費用だけが積み上がります。最初の一歩は、今のお墓の状況を知ることからです。
参考情報(データ出典)
- 厚生労働省「衛生行政報告例」第6表(e-Stat、2026年9月28日更新版)――2024年度改葬件数176,140件・無縁墳墓等の改葬3,006件・都道府県別データ
- 鎌倉新書「第16回お墓の消費者全国実態調査(2025年)」――2025年1月実施・回答者1,475人(お墓ポータル経由の購入者)
- 鎌倉新書「第17回お墓の消費者全国実態調査(2026年)」――2026年3月公表(樹木葬47.4%)
- 鎌倉新書「第4回改葬・墓じまいに関する実態調査(2026年)」――2026年1月実施・回答者733人
- よりそう「お墓さがし」コラム(2026年5月27日)――合祀墓・送骨の費用目安、永代供養墓・樹木葬の歴史
- 「墓地、埋葬等に関する法律」(昭和23年法律第48号)――改葬許可制度
※費用の目安は事業者公表の相場であり、地域・条件により大きく異なります。
